『マッサマン』店主のティクさんは5年間、キッチンをひとりで回してきた。できる限り手づくりにこだわっているので、例えば、ふつうならすぐ出来上がりそうなグリーンカレーも、このお店ではテーブルに運ばれてくるまでに10〜15分くらいかかる。注文を受けてから、ひとつひとつの具をカレーに入れて煮込むのがティクさんの流儀なのだ。

さまざまな料理に用いる出汁も、毎朝、国産鶏ガラと野菜をたっぷり使ってとっている。「残ってしまったら処分して、翌朝またゼロから新しい出汁をとるようにしています。やっぱり、おいしい出汁で料理をつくりたいので」。

タイ料理店で出汁という言葉を聞くとは思っていなかったが、なるほど、真面目に手づくりしているお店にとっては、カレーも麺類のスープも《出汁が命》に違いない。

『マッサマンカレー』は出汁とココナッツミルクにジャガイモ、そして炒ったピーナッツなどが入っている。スパイスは、シナモン、八角、ローリエ、クミン、唐辛子など7種類をすり鉢でコンコンとすりつぶして。唐辛子控えめなので、タイカレーなのに辛くない。濃厚クリーミーなカレーが程良く染みたチキンとジャガイモをジャスミンライスにのせて、ハフハフと食べる。たまらん。
『マッサマンカレー』のおともは、『揚げ玉子サラダ』がおすすめ。現地名を『ヤムカイダオ』といって、ぼくはタイへ行ったときに必ずこれをあちこちで食べまくる。家でもときどきつくるのだが、揚げ玉子と野菜を混ぜただけのサラダは、シンプルゆえに味をキメるのが難しい。このお店のドレッシング的なヤムダレは絶妙なさっぱり風味で、「タイでは飲んだあとに玉子サラダとお粥で〆たりします」という言葉にも納得。

そして、ティクさんのソウルフードとも言うべき存在が『トムヤムヌードル』だ。「タイの田舎で『トムヤムボラーン(昔の味のスープ)』と呼ばれている麺です。わたしが子どものころによく食べていた味を、記憶を頼りに再現しました。トムヤムクンとはまったく違う料理です。具となる肉団子はご注文いただいてからつくっているので、ちょっとお待ちくださいね(笑)」。


『マッサマン』のかわいらしい建物は、かつて『ととや』という、素晴らしくおいしい沖縄料理と泡盛古酒が楽しめる伝説的なお店があったところ。造形作家・井村隆さんのアート作品『カラクリン』が飾られた『ととや』では、店主の井村忍さんと「これおいしいですねー」「そうなんよー、おいしいものしかつくれへんねん(笑)」というようなやりとりをよくしたものだが、もしかしたらこの建物自体、「おいしいお店しか入りまへんねん」ってことなのかもしれないな、なんてふと思ったり。


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大磯町大磯1045-6
11:00~15:00(L.O.14:30)/17:30~20:30(L.O.20:00) 月曜定休 P3台 マッサマンカレー1,150円(平日ランチタイムは前菜サービス)、トムヤムヌードル1,150円、揚げ玉子サラダ1,030円、タロイモプリンとアイスセット690円