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松ぼっくりを食べてみた②

 松ぼっくりをひと晩水に漬けておいたら、水面にマツヤニがびっしり浮かんでいました。水を入れ替えて、ナベを火にかけます。湯気と共に漂ってくる匂いは、まさにザ・松! 嫌いな匂いじゃないけど、食べものの匂いとは思えません。こういうときにたいてい「なにやってんのかにゃー」って様子を見に来るうちのネコも、この匂いにビビッたらしく、台所に近寄ってきません。逆マタタビ。


 

 沸騰したら、一旦お湯をこぼし、グラニュー糖と水を入れて、また火にかけます。ネットで見つけた松ぼっくり煮のレシピは、松ぼっくり1キロ、グラニュー糖1キロ、水1リットル。1時間くらい煮ると、かなり白濁してきます。沈んだ松ぼっくりにモザイクがかかったような濁りっぷり。世の男性のみなさん、こういうとき反射的に目を細めてモザイクの向こう側を見ようとするクセ、なかなかなおりませんよね。

 そして煮はじめてから1時間半後、濁っていた煮汁が、いきなりピンクっぽくなりました。なんだか変な言い方ですが、「煮汁がシロップになった瞬間をオレは確かに見たぜ!」って感じでした。松ぼっくりは煮えすぎて崩れかけてきたので、加熱終了。人生初の記念すべき松ぼっくり煮が完成しました。たぶん。

 早速、試食。とりあえず無難そうな小さめの松ぼっくりを頬張ってみたら、開く前のウロコみたいな部分=種鱗(しゅりん)も、中心の芯の部分も、やわらかくて、甘くて、おいしい! ビジュアル的にも意外にイケてる!あのアク抜きのときのマツヤニベトベトなダークサイドのイメージは、もうありません。  独特のさわやかでスパイシーな香りは、ちょっとカルダモンに通じるものがあります。これ、好き嫌いハッキリ分かれる味なんだろうけど、ぼくはかなり好きですね。いきなり立て続けに5個も食べてしまったくらい。


 そして、さらにうまいのが、シロップ。おっさんにはまったく似合わないファンシーなピンク色なんですけど、そのまま氷を浮かべると、あるいは炭酸で割ると、まあなんつーか、それこそロシアの貴族が飲んでいそうな、なんとも高貴な香りのドリンクになるのです。「煮た松ぼっくりは苦手だけどシロップは最高だよね」というひともたくさんいそうです、みんなが松ぼっくり煮をつくるような時代がきたら。


 あまりにはじめての味すぎるし、松ぼっくり方面のボキャブラリーもまったく持ち合わせていないし、この松ぼっくり煮のおいしさをどう表現したらいいのか、プロのライターのくせにまったくわかりません。ネットには「ログハウスみたいな味」「製材所みたいな味」という感想がありました。うちのかみさんも「タンスみたいな味」と言ってました(食べたことあるんかい)。  ぼくのまわりの食いしん坊たちに食べてもらったら、龍角散とか仁丹みたい」「漢方薬にありそう」といったクスリ系、「森を食べているよう」「雲ひとつない青空が見えたよ」なんて詩人系、「松ぼっくりの味としか言えないね、松ぼっくりだもの」というみつを系、「松並木を歩いているみたい」ってそれもはや味じゃないじゃん系など、人生いろいろ感想ばらばらでした。誰か正解を教えてください(笑)。


 せっかくいっぱいつくったので、知り合いのパン屋さんとお菓子屋さんに松ぼっくり煮を渡してきました。ほんとはジェラート屋さんにもお願いしたかったけど、それはまた機会があったら。これでおいしいパンや焼き菓子ができたら、楽しそうじゃないですか? 西湘〜湘南エリアの海辺にはクロマツがいっぱい生えているし、松ぼっくりタダだし、手軽な地産地消ほど素晴らしいものはありません。  松ぼっくりパンや松ぼっくりケーキのことは、次回につづきます。 海の近く編集部 塩谷卓也


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