ギャラリーのような空間に美しく並ぶクロワッサンを眺めながら、店主の近藤将吾さんは、「うちのクロワッサンは、バターを食べてもらうようなイメージなんです」と言った。それってどんなイメージなんだろうか。いろいろ想像しながら食べてみる。答えは、すぐにわかった。

口の中いっぱいに広がる発酵バターの風味。その向こうからじわじわ押し寄せてくる小麦の香り。ちょっと甘くて、ちょっと塩気があって、メリハリの効いた味わい。噛みしめてもバターがジュワジュワにじみ出してくるのではなく、立ちのぼって鼻腔をくすぐるリッチなバターの香りに、目をつぶってうっとりしてしまうような、酔いしれてしまうような。

ひとつ食べただけでも、作り手のディープなクロワッサン愛がじわじわ伝わってくる、情熱的なクロワッサン。近藤さんは、そもそもパン屋になったキッカケが、クロワッサンだったと言う。
「飲食関係をやろうなんて、全然思ってなくて。21歳のころワーホリでオーストラリアへ行ってたんですが、シェアメイトのフランス人が、毎朝パン屋でクロワッサンを買ってきて食べていたんですよ。それでぼくもだんだん好きになって、その後ヨーロッパを長く旅したときにはもう、クロワッサンやバゲットばかり食べるようになっていて。日本へ帰ってきたら、すぐにパン屋で働きはじめました(笑)」。
いくつかの店で経験を積み、平塚にニコを開いたのは2013年。早朝から70〜80種類のパンをひとりで焼いているが、やはりクロワッサンを作るのが最も楽しいそうだ。
ニコのクロワッサン生地は、天然酵母で発酵させるタイプではないが、仕込みの途中で天然酵母のルヴァン種も加えるようになった。発酵のためではなく、酵母のうまみをプラスする調味料として。そのほかにも材料の配合を変えたり、ミキシングの具合を変えたり、創意工夫、試行錯誤が終わることはない。


「実は開店以来ずっと、本当にちょっとのことなんですけど、毎日レシピや作り方をなにかしら変えているんです。商品だからおいしいのは当たり前、その上で、ぼくにしかわからないようなチャレンジをさせてもらっています。うちのクロワッサンは、もっともっとおいしくなると思っているので」。
地元の湘南小麦を含め、小麦は国産ものを100%使っている。クロワッサンは歯切れの良い『春よ恋』と、もっちりした『ゆめちから』をミックス。どちらも北海道産だ。


「ぼくは、パン屋って小麦の加工業だと思っているんです。おいしい小麦を作ってくれる生産者がいて、こだわりの製粉をしてくれるひとがいる。そうした思いをパンにして、みなさんに食べてもらうのが、パン屋の役目。そんなふうに考えると、手抜きなんてできません」。
そして近藤さんは、ちょっと照れながら、でもすごく真面目な表情で、「それで食べたひとがニコッて笑ってくれたら最高だな、と思って、ニコって名前にしたんすよ」と教えてくれた。ニコのクロワッサンは、そんな熱い気持ちが、16の層にぎっしり詰まっている。


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Boulangerie nico ブーランジェリー ニコ 平塚市宮松町7-2 落合ビル 1F
営業時間8:00~19:00 月・火曜定休
《テイクアウト情報はこちらでご確認ください》 https://www.facebook.com/-Boulangerie-nico-1436576489915435/
クロワッサン180円、バゲット250円、シナモンロール240円