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カレーパンまだありますか?【ベッカライ 和っしょい/湯河原】

 ぼくらのまわりには、「カレーパンを作るパン屋」と「カレーパンを作らないパン屋」がある。「カレーパンを作らないパン屋」をやっている知り合いに、なぜ置かないのか聞いてみると、「だって大変だよ、カレーをちゃんと作ったら、とても1日じゃ済まないでしょ」という答えが返ってきた。オレはカレー屋じゃなくてパン屋だから、ってことらしい。


 彼曰く、カレーパンは、考えるべきこと、用意するべき材料が、ふつうの総菜パンよりもかなり多いそうだ。たしかに、カレーを作るプロセスを想像しただけで、野菜、肉、スパイスなど山盛りの食材と、地道にたまねぎを炒め続けるような光景が目に浮かぶ。インド風なのか欧風なのか自分風なのか、悩みながら何とか作り上げたとしても、それはまだ、ただのカレーであり、包まなければカレーパンにはならない。


 パンはどの粉でどんな食感の生地にすればそのカレーにぴったりハマるのか、カリッと揚げるためのバッター液の調合具合はどうするのか、衣のパン粉や揚げ油は何を選ぶのか……ああ、なるほど、確かに深い。カレーパンをあきらめた知り合いを責めることはできないな。でも、もしかしたら今回の特集に刺激を受けて挑戦するかもしれない、なんてこっそり期待している。おいしい心変わりなら、いつでも大歓迎だ。



 さて、2018年4月号の表紙に登場した「カレーパンを作るパン屋」は、湯河原にある『ベッカライ和っしょい』。店主の井上美幸さんは、カレーパンが大好きだからこそ、自分の手で作ることにしたと言う。


「実家のカレーは市販のルーを使っていたんですが、私はそれよりスパイスから作るあっさりしたカレーが好きでした。カレーパンも同じで、外で食べると、だいたい衣やカレーの油がきつくて胃がもたれてしまうんですよね。食べた後で変なゲップが出ること、ありませんか(笑)」。


 ありますよねー、なんてゲップ談義をしているうちに、できたての焼きカレーパンが、目の前でどんどんなくなっていくではないか。「カレーパンどこ、ああカレーパンここね、よかったよかったカレーパン」なんて謎の呪文をつぶやきながらトレイに3個載せてレジへ向かう人もいたりして、「今すぐインタビューを中断してカレーパンを買っておかないと食べられないかも」という危機感を抱いたのは、うみちか取材史上はじめてのことだった。井上さん、カレーパンまだありますか?



 

 湯河原駅から歩くハイカーもいるが、およそ1時間かかると言う。車でアクセスしても、途中でカーナビの示すルートを疑ってしまうくらいの山の中。ロッククライミングと梅林で有名な幕山公園のすぐそばに、『ベッカライ和っしょい』はある。



「昔バイトしていた信州の槍沢ロッヂから見える景色にとても似ていたので、どうしてもこの場所でパン屋をやりたかったんです」。


 そう語るのは、店主の井上美雪さん。パン作りは安曇野の農産物加工所で習得した。生地は天然酵母オンリー、カンパーニュなどのハード系は《ライ麦で起こしたサワー種》、ほかのパンは《はじめにレーズンで起こしてから全粒粉でつないだルヴァン種》で仕込んでいる。


 ハード系と書いたが、サンドイッチにも使われているカンパーニュは、見た目よりふわふわ。井上さんが「噛んだら口の中が切れてしまいそうな固いパンは好みじゃない」から、そもそもこの店には、ガチガチにハードなパンは存在しないのだ。



 営業は週4日。開店は11時。取材した日は早朝から雨がシトシト降っていたが、開店15分前にはもう常連らしき親子連れが来ていた。「こんな場所なのに、こんな天気なのに、ほんとにありがたいですねー」と井上さん。ずらり並んだパンを数えたら、ざっと30種近くあったが、すべてひとりで焼いているそうだ。「厨房には小さなコンべクションオーブンがひとつあるだけなので、深夜0時ごろから開店時間を目指して焼き続けるんです」。


 週末などは前夜21時からはじめることもあるそうで、ということは、え?14時間ぶっ通し?

「お客さんがここまで来てくださるのだから、私も精一杯やらないと」。

 話を聞くほどに、身長150センチの井上さんが、どんどん大きく見えてくる。



 もはや名物と言ってもいいくらいの人気を誇る焼きカレーパンの中身は、甘さの奥にピリッとした辛味が潜んでいるインド風のキーマカレー。そのときの気分次第で、ココナッツチキンカレーになることも、初夏にグリーンカレーが登場することもあるそうだ。

「湯河原のタケノコで作ったグリーンカレーは本当においしいんですよ!グリーンカレーはパンの中に詰めるのが難しいので、タルティーヌみたいにパンの上に載せるタイプのカレーパンになります」。



 揚げではなく焼きなのに表面がカリッカリなのは、フォカッチャから作ったパン粉をまぶしているから。自分で焼いたいろいろなパンを粉をして試した結果、フォカッチャが最も理想的な仕上がりだったそうだ。


 そして。営業時間は一応16時までなのだが、この日は12時半ごろに、主なパンが売り切れてしまった。都市部のパン屋ではあまり聞かない「また絶対来ますね」「お待ちしてます」的なレジでのやりとりも、こういう場所にある店ならではのことなんだろうな、なんてふと思ったり。


 イートインのできるテラス席には、店を手伝っている母親の久美子さんが、いつでも飲めるようにセルフサービスのコーヒーを用意している。そこに並ぶテーブルやソファが不揃いなのは、「お客さんたちが、いらないテーブルやイスを持ってきてくれた」からだとか。


 祭りには目がなくて、御輿を担ぐのが大好き、という井上さん。そうか、だからなのか。和っしょい。





#湯河原・真鶴 #湯河原 #和っしょい #幕山 #天然酵母 #カレーパン

 

ベッカライ 和っしょい

湯河原町吉浜2029-167

営業時間11:00~16:00(売り切れ次第終了) 月・火・金曜定休


焼きカレーパン230円。野菜チーズサンド420円、3種のサンドイッチ450円、アボカドチキンサンド360円なども人気なのでお早めに!セルフサービスのコーヒー100円

*営業時間や料金、定休日などは変わっていることもあります。

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