昔から「串打ち三年、焼き一生」なんて言われる焼き鳥の世界。鶏の種類、肉のさばき方、串の打ち方、焼き方、盛り付け方……《おいしい焼き鳥とは?》を追求していくと、一体どこまで行ってしまうのだろう。
『庭つ鶏』店主の大高一仁さんが出した答えは、「おいしい焼き鳥は新鮮な鶏からしか生まれない」というものだった。しかし、食肉業者に頼っている限り、鮮度には限界がある。
そこで大高さんは、内臓の入った丸鶏を自らさばくために、食肉処理場認可と食肉処理免許を取得。ここではやらないが、作業別の処理室を用意すれば、鶏をしめて血を抜いたり毛をむしることもできるそうだ。

鶏は深夜に養鶏場を出て7、8時間後には、この店のまな板の上にいる。横浜エリアを除けば、神奈川県内でそこまでやっている料理人は、大高さんただひとりだという。
「鶏をさばく時は、丁寧によく洗って、冷水で締めるのが大事。レバーの奥の方に隠れている血まで、きっちり抜き取るようにしています」。


『庭つ鶏』が仕入れるのは、地鶏や銘柄鶏ではない、ごくふつうの鶏、いわゆるブロイラー。って、そのまま書いちゃってもいいんですかね?
「いや、むしろぜひ書いてほしいですね。昔みたいにひどい環境のブロイラーなんてもうないし、新鮮な鶏を丁寧にさばいたら、その味にかなうものはないと信じています。だから、お客さんに『とってもおいしいけど何ていう地鶏ですか』って聞かれるのが、一番うれしいかな(笑)」。



なるほど、遠くの地鶏よりも近くの新鮮ブロイラーか。大高さんはさらに、鶏の重さにもこだわる。
「一般に若鶏は生後25〜30日くらいで出荷されてしまうけど、ぼくは大きめの鶏の方が好みなので、できるだけ70日を超えて3.2キロ以上になった鶏を届けてもらっています。面白いことに、3キロと3.2キロでは、肉の味わいが全然違うんですよ。その200グラムは骨ではなく胸肉やもも肉を厚くしている200グラムで、しかもかなりうまい200グラムなんじゃないかと、ひそかに思っているんです(笑)」。
大高さんの頭の中はきっと、いつもそんなふうに鶏のことでいっぱいなんだろうな。リスペクト。

さて、上の写真にご注目。これぞ『庭つ鶏』の看板メニュー、その名も『皮パリもも焼き』なり。このビジュアルを見れば、皮目パリパリに焼けたもも肉をがぶりとかじると、ジュワジュワ〜と肉汁がほとばしって……みたいな味を想像するかもしれないが、そこは『庭つ鶏』、皿に盛られた肉はかなりのレア焼きだ。
皮目のパリパリでカリカリな食感を楽しんでいると、その奥から、トロトロコリコリした刺身的な旨味が押し寄せてきて、なんだこのナマっぽさは!なんだこのねっとりとした甘みは!とコーフンしまくり、最後にはとても焼き鳥とは思えない味わいに、うっとりしてしまうのである。
「刺身で出すもも肉と、焼いて出すもも肉は同じものだから、皮以外はできるだけレアに近い状態で食べていただきたいんです」と大高一仁さん。同じ半ナマ系であるささみの湯引きやたたきともまったく違った、鮮度抜群なもも肉ならではの、めくるめく初体験テイスト。

この店のルーツは、品川の旗の台にある『鳥樹』という人気店なのだとか。
「ぼくは昔から生っぽい肉が好きで、焼き肉屋へ行っても、いい肉はちょっとしか焼かない、あんまり網を汚さないタイプなんです(笑)。『鳥樹』の刺身や焼き鳥が好きで、3年ほど働かせてもらいました。免許を取り、鶏をさばくのも、刺身を出すのも、串焼きじゃないのも、『鳥樹』のスタイルなんです。まあ、焼き物はここまでレアじゃないですけど(笑)」。

そして2004年、大高さんは五反田に『庭つ鶏』を開店。オープンキッチンで鶏をさばくライブパフォーマンスを見ながら新鮮な鶏を楽しめる店は、焼き鳥好きを中心に話題を呼び、一躍人気スポットとなった。
「五反田店をスタッフに任せて、葉山へ来たのは4年前。このイタリアンだった洋風の建物をスタイリッシュに改装するのではなく、あえて外観はそのままにして、浅草の雷門みたいな大きい赤提灯をぶら下げてみたんです(笑)」と大高さん。その狙い通り、店の名は憶えていなくても、「でっかい赤提灯があるアヤしい洋館」を知っている人は多い。
現在、五反田店では生の鶏を出していないので、刺身類が食べられるのは、この葉山店だけだ。「鶏はしめてから15時間後くらいが最もおいしい」と言われているそうで、『庭つ鶏』でも、その時間を計算して鶏をさばき、熟成させている。もも、むね、ささみ、首肉の4種類からなる刺身の盛り合わせを頼めば、そのピークの味が一番ストレートにわかるだろう。ただし、平日などは刺身盛りが限定5セット前後ということも多いので、お早めに。

皮パリもも焼きと刺身を堪能したら、あとは生ビール片手に、好みの焼き物を攻めるべし。ささみ、レバー、砂ギモ、ハツ、軟骨、皮など8種類あり、イチオシはレバ−。箸で持つとプルプル揺れるカタマリを舌の上に載せれば、甘いジュレのようなレバーが(そう、レアな鶏はどのパーツも甘い!)体温で溶けて液体のように広がっていく。ああシアワセ、ビバビバ、プリン体。『庭つ鶏』のレバー焼は、メニューの《飲み物》のところに入れた方が、いいのではないだろうか。

庭つ鶏
葉山町一色2444‐7 営業時間17:00~22:00(L.O.)
*日曜は〜21:30(L.O.) 、 土・日曜は昼11:30〜14:00(L.O.)も営業 月・隔週火曜定休
https://www.facebook.com/niwatsudori.hayama/
皮パリもも焼き 小930円、大1390円、ハツ焼420円、レバー焼410円、ささみ焼き510円、さしみ盛り合わせ1,540円、生ビール580円(ジョッキ)。 *営業時間や料金、定休日などは変わっていることもあります。
夏だけでなく一年中食べられる名物の冷やし中華750円もぜひ
