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あるものがなくて、ないものがある【オリベ/二宮】

「うちの店は、ふつうは蕎麦屋にあるものがなくて、ないものがあるんですよ」と、店主の小渕映司さんから、ナゾナゾのような言葉を投げかけられた。はて。アルモノガナクテ、ナイモノガアルモノ、ナーンダ……なんてヒトリゴトを呟きながら、メニューをじっくり読んでみる。


 ふつうはあるのにないものは、天丼、親子丼などの丼もの、たぬきそば、きつねそば。蕎麦屋の酒肴、いわゆる蕎麦前の定番である出汁巻き玉子や板わさもない。


 一方、ふつうはないのにあるものは、蕎麦前タイムが長くなってしまいそうな一品料理。ゴマ豆腐、ひろうす揚げ出し、活き車海老の塩焼き、鰯オリベ煮。ハモの天ぷらそば、蕎麦粉入りがんもどきのいなりそば、なんて蕎麦も珍しい。さらに、メニューに焼き飯なるものを発見。しかも、鯛焼き飯と柴漬け焼き飯の2種類があるらしい。ごくり。




 調理場を覗くと、あるはずの炊飯器がなくて、ないはずの土釜がある。白飯はメニューにないので、土釜でごはんを炊くのは、ふつうはない焼き飯のため。いやはや、もう、何がなんやら。おそらくまだまだ答えは隠れているのだろうが、途中報告。この店を蕎麦屋と呼ぶのは間違っているのかもしれない。


 小渕さんの料理人としての歩みを聞いているうちに、その思いは確信に変わっていった。川崎に生まれ、19歳から茶懐石(茶事に出される一汁三菜を基本とする懐石料理)の修業を積み、名だたる店で腕を磨いた。30歳で独立して麹町に開いた割烹は完全紹介制、主な顧客は政財界人。そして40歳の時に二宮へ移り住み、『オリベ』を開いた。


「とにかく一番高いものを食べさせてくれ、みたいなバブル時代の風潮が好きになれなかったんです。もともと秋になると茶懐石の最後に新蕎麦を出したりしていたので、やるなら蕎麦がいいかなと」。



 北海道や秋田、群馬などの粉で打った蕎麦は、せいろ、田舎(挽きぐるみの強い香り)、白雪(蕎麦の中心部だけの淡泊系)の3種類。十割蕎麦ならではの味わい深さと、二八のように滑らかな食感が楽しめる。すっきり辛口、キリッと濃いめの蕎麦つゆは、血合いを抜いた薄削りの鰹節と、羅臼産昆布でとった出汁が命。蕎麦に添える本わさびも、香りの良い3年ものだけを仕入れている。


『オリベ』では、器もご馳走のひとつ。小渕さんの尊敬する茶人・古田織部にもつながる織部焼のほか、一流現代作家の器がふつうに使われているので、時々「これ本物ですよね!」と驚く客もいるとか。人気メニューである鴨せいろの汁椀は色絵磁器で知られる高橋誠氏の作で、秋はスズメ、春になるとメジロの絵柄に変えるそうだ。にしんそばの椀も、吹墨が美しくて見とれてしまった。

「ぼくにとって、器は着物のようなもの。ふさわしい季節が来たら使ってあげないと意味がないんです」。


最終結論。『オリべ』は蕎麦屋に見えるけど、実は、蕎麦をまじえつつ、料理人・小渕映司さんがこれまでに極めてきた茶懐石の心を表現する場なのではないだろうか。あるものがなくて、ないものがあるのは、きっとそういうことなのだ。


#二宮 #オリベ #手打ち #蕎麦 #茶懐石 #古田織部

 

二宮町百合が丘1-1-2 営業時間11:00~15:00/17:00〜20:00 木曜定休(祝日の場合は営業) 

鴨せいろ1,980円、にしんそば1,320円、蕎麦の実入りゴマ豆腐370円、鯛焼き飯1,320円(税込)

*営業時間や料金、定休日などは変わっていることもあります。

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