湯河原駅と温泉街の中間あたりの裏通り。地図では不便な場所のように見えるが、駅からバスに10分くらい揺られたらおいしい焼き鳥を楽しめると思えば、決して遠くはない。

この地で1993年から店を営んできたのは、大将・宗政広明さんと成子さん夫婦。料理人の道具や器が整然と並んだ清潔感あふれるオープンキッチンを見ただけで、大将の繊細さが伝わってくる。《女性がひとりでも入りやすい焼き鳥屋》を心がけ、実際に客の6割以上が女性だと言う。

常連のほとんどが、最初の生ビールと一緒に「とりあえず」と注文するのが、鳥助のたたき。湯引きした水郷赤鶏のささみを、シソやネギ、ミツバ、ゴマなどの薬味がたっぷり入った特製ポン酢で食べるのだが、わさびがけっこうツーンと効いていて、泣きそうになるけど泣かない、そんなギリギリの涙目になりながら「ああ、おいしいなあ」と呟いてしまうような一品だ。
ちなみに、ささみを食べた後のわさびポン酢は、そのままチビチビ飲んだり、焼き鳥をつけたり、ごはんんにかけたりと、みなさんなかなか手放さない。だから女将もポン酢の器は下げることなく残しておく。そんな何気ない店の食いしん坊な習わしが、とても素敵に思える。

このたたきや釜飯など、ほかの料理にも使われていて、もちろん焼き鳥にも欠かせない存在の調味料がある。それは、手作りの塩だ。「うちの塩は鳥肉に味をつけるためのものじゃなくて、鳥肉のうまさを引き立てるためのもの」と大将。八重山や瀬戸内のおいしい天然塩をいくつかブレンドし、門外不出のヒミツの方法で、どこにもないオリジナルの塩を作っていると言う。

しかも、「鳥は春夏秋冬、季節によって味が変わるので」、塩もそれに合わせて配合や製法を変えて、年4回作るそうで……。すすめられた塩をペロリと舐めてみたら、ウワーナンデスカコレハ、と驚かずにはいられないうまみ、ウマミ、旨味。大将、これほんとに塩だけ?何かヤバイやつ入ってないですか?
「天日干しにしたり、いくつか手間をかけて丁寧に作ると、こういう味になるんです。一番シンプルに味がわかるのは、塩むすび。米がすごく甘く感じられて、もう、最高ですよ」。
大将いわく、塩は生き物。だから、呼吸できる常滑焼のカメで大切に保存。惜しみなく愛情を注いだ塩が、鳥助の焼き鳥や料理に魔法をかける。
鳥助が毎日仕入れている鳥は、冷凍やチルドではない、大将が言うところの《純生》のみ。そして例の塩をパラリと振ってから、高速チタンバーナーで一気に焼き上げて旨味を閉じ込めているので、ねっとりした白レバも、皮パリパリな手羽も、プリプリなハツも、注文を受けてから寿司のように握って串にする生つくねも、たまらなくジューシーなのだ。
「炭火の香りが合う鶏肉もあるけど、うちは水郷赤鶏そのものの風味を楽しんでもらいたいので、あえて炭火は使っていないんです」。

〆ごはんは、どこか懐かしい味わいの鳥ごぼう釜飯がおすすめ。ふたりでシェアすれば、別腹にスルリとおさまる。なんなら、あともう何本か、焼き鳥を……。

#湯河原・真鶴 #湯河原 #鳥助 #焼き鳥 #たたき #水郷赤鶏
鳥助
湯河原町宮上292-8 営業時間17:00~22:00 月曜定休
焼き鳥各種200円〜、たたき600円、鳥ごぼう釜飯1,000円、手作りとうふ500円、生ビール小550円
*営業時間や料金、定休日などは変わっていることもあります。