「世界中どこへ行っても水は飲み物。水を食べ物としているのは日本人だけなんですよ」と、かき氷文化史研究家の肩書を持つ『埜庵』店主・石附浩太郎さん。2003年にかき氷の店『埜庵』をオープンして以来、《いかに氷をおいしく食べてもらうか》に力を注いできた人だ。そのはじまりは21年前に秩父の『阿左美冷蔵』で、はじめて天然氷のかき氷を食べたことに遡る。

「子供の頃から甘いものに目がなくて、人一倍食べてきましたが、はじめて天然氷の梅酒のかき氷を食べたとき、どのスイーツよりもおいしかったんです。これ、本当にかき氷なの!?というほどの衝撃でした」。
その日以来、大袈裟に言えば頭の中は天然氷でいっぱい。足繁く『阿左美冷蔵』に通い詰め、ついには氷の池の作業まで手伝うようになった。「国内ではたった3ヶ所でしかつくられていない天然氷は、想像をはるかに超えた労力と時間がかかっている《作物》です。できる限り大切に扱い、その魅力を最大限に引き出してかき氷にしないといけない」。
現在『埜庵』では供給量が多い日光『三ツ星氷室』の天然氷を使っている。かき氷にする氷は前日から外気にさらし、ゆっくりと柔らかくする。氷が少し汗をかいたくらいが、ちょうどよい《かき時》だ。

「かくと言うより氷をはがす感覚ですね。氷から水に変わる瞬間を、口の中で無理なく味わえるのが、ぼくの目指すかき氷。電子顕微鏡で見ると埜庵の氷は粒子に角がないんです。それがのど越しの良さになります」。
夏の3ヶ月、かき氷削り器は一日中回りっぱなし。一台当たり、ひと夏で20枚もの刃を使うという。切れ味が良いからおいしく削れるわけではなく、リズミカルに削れるかどうかが肝心。毎日刃の出方を細かく調整し、かく時は削り器から落ちる氷に、適度に空気を含ませながら、器におさめていく。シロップは3回に分けて注ぐのが決まり。そうするとまんべんなく味がまわる。


氷をかく仕事はスタッフに任せてもシロップづくりは石附さんの仕事。朝から果物を仕入れ、店に来たらすぐにその日に出すシロップを調理する。果物の種類にもよるが、最もおいしいのはたった2時間程度。抹茶のシロップなどは、どんどん劣化するので、使いきれない分は破棄することに。それが『埜庵』クオリティたる所以。

こうやって開店以来17年、さまざまな食材を使い、試行錯誤を繰り返しながら、オリジナルのシロップをつくり上げてきた。
「日本人はとりわけいちごが好きでしょう。でも5月末には生の苺がなくなるので、冷凍や輸入物を使うしかなかったのですが、4年前山梨県北杜市で栽培される《夏いちご》と出合い、ハウス丸ごと契約しました。7月から10月まで提供できる夏いちごは、冬に食べるいちごの氷とは、また違った味わいになっています」。

《いかに氷をおいしく食べてもらうか》をテーマにあらゆる努力を続け、とうとういちごをハウスごと契約してしまった。いやはや。かき氷は氷にシロップかけるだけのシンプルな食べ物だけど、そのおいしさの裏にある発想や挑戦を知ると、やっぱり『埜庵』はすごい店だと改めて思う。

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埜庵
藤沢市鵠沼海岸3-5-11 営業時間:不定期営業中なので、 Instagram kohori_noan にてご確認お願いします。 2020年は記録的暖冬のために、天然氷が例年の2割程の採氷に終わりました。今年のお店での営業は純氷を使用しています。 http://kohori-noan.com
かき氷500~1,200円(税込) *営業時間や料金、定休日などは変わっていることもあります。