3月20日〜4月5日に開催されている陶芸家・志村正之さんの『ハルヲヨブ2020』という作陶展をのぞくため、5年ぶりに松田の山の上にある時光窯を訪れた。桜の花の下、富士山をのぞむ工房のまわりには、登り窯で焼いた大小さまざまな埴輪がずらり。

入口の斜面で、小屋の前で、裏山で、のんびりと暮らしているかのような埴輪たち。5年前には誰もいなかった、ような気がする。いや、こんなに素敵な埴輪ワールドを目にしていたら、いくら記憶力が弱いぼくでも、忘れていないはずだ。



埴輪と向き合い、あなたはずいぶん口を開けていますね、あなたは腰のねじれ方が素晴らしいな、あなたは目がとっても涼やかだ、なんてひとつひとつ見はじめると、止まらなくなる。そうこうしているうちに、たまらなく好きな表情とボディラインをした埴輪と出会ってしまった。ほかのどの埴輪よりも澄みきった美しい声で歌っているように見えた。ヒトメボレ。連れ帰って、うちの庭で暮らしてもらいたかった。


しかし、ぼくたちが結ばれることはなかった。残念ながら、ここにある埴輪はごく小さいものを除いて、売り物ではないのだ。志村さんはこれから何十年もかけて1000体の埴輪をつくり、それを野山に並べた風景を見てみたい、という。いまは、まだ200体くらいで、年一度、10〜11月ごろに窯を焚くとか。ならば毎年、桜が咲くころに、あのヒトメボレ埴輪と、その新しい仲間たちに、会いに来ようと決めた。
海の近く編集部 塩谷卓也




時光窯
松田町庶子平田 www.facebook.com/jikogama