早川駅のすぐ目の前。小さなビルの1階。『ながや』という文字と鯛の絵が染め抜かれた暖簾。カウンターに5脚のイス。ほかにふたりがけのテーブルがふたつ。季節感たっぷりな料理を楽しめる蕎麦割烹の店。品書きはどこにもない。おまかせ。

カウンター席に座ると、目の前がオープンキッチン。と言うか、手をのばせばすぐ届くようなところに、店主・長屋偉太さんが!もともとは寿司屋だった店舗をほぼそのまま使っているので、こんなに近くなったらしいが、寿司屋のネタケースみたいな遮るものがないので、あんなところからこんなところまで、自分の料理が作られていく過程がすべて見えてしまう。
料理マンガなら、ここで料理人と客とのバチバチな真剣勝負がはじまりそうなシチュエーション。『ながや』の場合は、長屋さんのやわらかな物腰、人懐っこい笑顔のおかげか、至近距離で向かい合った空間を共有しながら、さあおいしいもの作りますよ、はいこちらもおいしくいただきます、みたいな何とも居心地良い雰囲気が漂う。

そういえば、はじめて昼に訪れた時、ちょっとドキドキしながら「料理の写真撮ってもいいですか」と聞いたら、緊張感を察してくれたらしく、「ぽくも撮っていいですよ」ってVサインしてくれたっけ。やさしい人だ。
長屋さんは18歳からずっと和食一筋。「25歳から『吉兆 ホテル西洋銀座店』で5年修業し、パリに渡って、日本料理店『円』などで板長を8年半務めていました」。
『吉兆』は基本的に未経験者しか取らないので、当初、25歳の経験者は断られたのだが、どうしても働きたかった長屋さんは何度も電話。するとある時、「今どこ?」と聞かれたので、「店の前の公衆電話です」と答えたら、すぐ面接ということに。「それで就職できました。実は、いつでも面接へ行けるように、常に店の前にある公衆電話からかけていたんです」。いやはや、何という情熱。思いは叶う。
蕎麦打ちは、パリで学んだ。「蕎麦の名人として知られる『達磨』の高橋邦弘さんのお弟子さんが『円』にいたので教えていただいたんです」。『達磨』のDNAを受け継いだ二八蕎麦は、キリリと辛めのつゆに、奥湯河原産の生わさびが香る。絶品。
『ながや』は昼、夜ともに、その蕎麦でしめる和食のコースのみ、というスタイル。仕入れは毎朝5時半に近くの小田原魚市場からはじまる。水揚げ状況を見て料理を考え、選んだ魚を店へ運んで下処理。8時から蕎麦を打ち、そのまま昼の仕込みに入る。
春は色彩豊かな山海の幸が、こだわりの器の上に集う。今回撮影した春の八寸も、小田原産トマトの土佐酢漬け、各々違った出汁風味のカブとプチヴェール、金柑甘煮、出汁巻き玉子、熱々のゴボウの唐揚げなどがずらり。

「地揚がりの鰆は藁で炙り、桜鯛は天ぷらや酢〆に。ハマグリやアサリなどの貝類もこの季節の楽しみですね」。ハマグリの吸いものは、カラから身を取り出してとった濃厚貝汁のような出汁に、これぞ春の香り、とうっとり。

ブルゴーニュワインや神奈川の地酒が揃っているので、贅沢なる旬の《蕎麦前》を肴に、一度ゆったり飲んでみたい。もちろん、カウンター席で。

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ながや
小田原市早川211-2 営業時間12:00~14:00/17:30~22:00 ※要予約 水・木曜定休 P2台
《テイクアウト情報はこちらでご確認ください》https://www.facebook.com/nagaya50314/
昼3,500円、夜5,500円~ *営業時間や料金、定休日などは変わっていることもあります。